PET検査の料金が健康保険適用に
2010年4月より、早期の胃がんを除くすべての悪性腫瘍(がん)のPET検査に健康保険の適用が認められるようになりました。
ただし、保険が適用されるのは、レントゲンやMRIなどの画像検査や、血液や超音波などのその他の検査で確定、転移、再発の診断ができない方、またはすでに診断されている方に限定されるなど、条件があります。
PET検査の費用に健康保険が適用される条件とは?
がんと診断された方、または「がんの疑いが高く精査が必要」と診断された方のPET検査費用は条件付きで保険適用に
健康な方が“がん検診”や“人間ドック”としてPETを受診される場合は、全額自己負担で10万円ほどかかりますが、すでに「がん」あるいは「がんの疑いがある」と診断された方で、「他の検査、画像診断により病期診断、転移・再発の診断が確定できない場合」に限り、PET検査費用に健康保険が適用されます。
またがん治療において、抗がん剤などの治療効果を確認する目的でPET検査を受ける場合も保険が適用されます。
もし、健康な方が健康診断目的で受けたPET検査であっても、がんなどの重大な疾病が見つかり、継続して治療を行なう場合は、後から保険適用となります。ですから、自由診療として受けた場合もPET検査費用の領収証は結果が出るまで大切に保管しておきましょう。
ただし、保険適用されるかどうかはケースによって判断が異なりますので、主治医にご相談ください。
てんかんや心疾患のPET検査費用にも保険適用
PETは脳や心臓の血管を検査にも有効で、後述のように、がん以外にもてんかんや心疾患の検査費用も保険適用となります。
PET検査に健康保険が適用される疾病
現在、日本国内でPETの料金が保険適用となる疾病は以下の通りです。
- 悪性腫瘍(がん)※早期胃がんを除く
他の検査や画像診断により、病期診断または転移・再発の診断が確定できない方 - てんかん
難治性部分てんかんで外科手術が必要とされる方 - 心疾患
・虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)によって心不全となった方の心筋組織のバイアビリティ診断
(他の検査で判断のつかない場合に限る)
・心サルコイドーシスにおける炎症部位の診断が必要とされる方 - 血管炎
すでに大型血管炎(高安動脈炎または巨細胞性動脈炎)と診断されており、かつ他の検査で病変の局在または活動性の判断のつかない方
がんは「早期胃癌を除く悪性腫瘍の病期診断または転移・再発の診断」に限り、健康保険が適用できると定義されています。
保険適用のためには、悪性腫瘍の可能性が高いと判断された根拠となる診断画像や病理診断等の検査結果の提出が必要となる場合があります。また症例によって判断が異なるため、実際に健康保険が適用できるかどうかは、主治医や医療機関にご確認ください。
ご注意!PET検査に健康保険が適用されないケース
重大な疾病に関するPET検査は健康保険適用となりますが、ただし、がんの疑いがあっても、以下のケースでは健康保険が適用されません。事前にご確認ください。
- 悪性腫瘍か良性腫瘍の鑑別のためのPET検査
(疑い症例での診断目的のPET検査) - 同じ月に、同じ病名による複数回のPET検査
- 同じ月に、ガリウムシンチグラフィを受けている方のPET検査
- CT、MRI、エコーなど他の画像診断を実施していない方のPET検査
- スクリーニング目的・健康診断目的のPET検査
- 不明熱の鑑別診断のPET検査
どの検査、どんな手順で受けるべきかは主治医が判断・提案しますが、ご自身が保険適用でPET検査を希望している場合は早めに主治医に意志を伝えておくことで、考慮してもらえる可能性があります。まずはご相談ください。
今さら聞けない!健康保険(社会保険)とは?
そもそも「保険ってなんのこと?」という方も少なくありません。
ご自身の健康保険はお持ちの「保険証」にて加入先を確認できます。
保険証をお持ちであれば、どなたでも健康保険を利用できます。ただし、後述のように“健康な方が受けるPETがん検診”など、対象外となる医療サービスもあるのでご注意ください。
健康保険は毎月定額の保険料を支払うかわりに、病院など(医療機関)で診察や治療を受けた場合の費用(医療費)を、本人が一部だけ支払って、残りは健康保険でカバーされるという仕組みです。健康保険に加入している本人とその扶養家族が対象になります。
健康保険は大別すると、全国健康保険協会が運営する「協会けんぽ」と、各企業の健康保険組合が運営する「組合健保」があります。
上記の健康保険の対象外となる方、学生、自営業、フリーターなどの方は「国民健康保険」に加入することになります。
健康保険適用の負担額は?
「保険証を忘れて医療機関を受診したら、お会計の際に実費で数万円を払うことになった」という経験をされた方もいるでしょう。
健康保険となる診療の自己負担額(病院の会計で支払う金額)は、70歳までは3割程度、70~75歳は2割、75歳以上は1割とされています。しかし保険証を持参していないと、これが適用されず、10割、つまり全額支払うことになります。(しかし同月内に保険証と実費で支払った領収証持参すれば、後日返金が受けられます。)
単純に10万円の検査費用なら、3割の自己負担額は3万円ということになります。一部負担の場合であっても、治療費などとあわせると出費がかさんでしまいますので、後述の医療費控除などの制度を利用して、できるだけ負担を軽くするという方法があります。
健康保険が適用されないケース
- 健康な方が受ける人間ドック・特殊ながん検診
PETがん検査もこれに含まれます。
例:定期健診、人間ドックなど - 自由診療(自費診療)
保険適用外に指定されている全額自己負担の診療で、医療機関によって金額を自由に設定することができます。
例:美容整形、視力矯正手術、審美目的の歯科治療・皮膚科治療など - 厚労省未承認薬・適応外薬や機器を用いた治療
上記の自由診療に含まれるものです。
例:高額な材料を用いた虫歯治療、がんの先進治療など - 業務上の病気やケガ
仕事中に起こったケガや、仕事に起因する病気などは労災保険の範疇となり、健康保険の対象外となります。
先進医療やPET検査など、かつては健康保険の適用外とされていた医療も、だんだんと保険が適用されるように制度が見直され、アップデートされています。よりよい治療を賢く選択できるよう、最新情報をチェックしておきましょう。
医療費控除をする場合
がんが見つかった場合は、PET検査も控除の対象に
がんなどの重大な疾病が発見されて治療が必要と診断された場合、さかのぼってPET検査の費用を医療費控除に含めることができます。その際は治療や通院にかかった領収証などが必要になりますので、保管しておきましょう。
またすでにがんと診断されている方で、PET検査が健康保険の適用となっている場合も医療費控除ができます。
なお医療費控除は、がんの治療や検査の費用のみならず、別の疾患や他科での治療費も合算して申請することができます。一般的には自費診療には保険が適用されませんが、条件によっては医療費控除の対象となります。
医療費控除とは?
医療費控除とは多額な医療費を支払った際、税務署に確定申告を行なうことにより、支払った所得税の一部が還付される制度です。
家計をともにする家族(給与所得者本人と、生計をともにする配偶者やその他の親族)の医療費を、1年(1月1日~12月31日)の間に10万円以上支払った場合に、超えた金額をその年の所得から差し引くことができ、税金が軽減されます。
医療費控除の対象となるもの(例)
- 医師または歯科医師による診療費、治療費
- 治療に必要と判断された検査費
(がんなど重大な疾病が発見された場合のPET検査、人間ドックなどの検診費用) - 入院費用
(ただし個室や個人希望による差額ベッド代、病室のTVや冷蔵庫などの設備使用料等は除く) - 通院のための交通費(電車、バス、タクシーなど公共の交通機関)
(ただし自家用車の駐車場代・ガソリン代は対象外) - 小さなお子さまの通院に付き添う方の交通費
- 治療に必要な薬代、治療器具の購入費用
- 治療のためのマッサージ・指圧師、鍼灸師、柔道整復師などによる施術費用
- 介護費用(領収証に「医療費控除の対象になる金額」と記載があるもの)
- 出産費用
…など
医療費控除の対象とならないもの(例)
- PET検査・人間ドックなどの健康診断費用
(検査の結果、異常がなかった場合) - 美容目的のみにて行なう治療費用
- インフルエンザなど任意予防接種の費用
(ただし法律に基づいて市区町村で実施する定期予防接種は除く) - 医療ローンなどの手数料
…など
医療費控除の計算の仕方
医療費控除として控除を受けられる金額は次のように計算します。
医療費控除に必要なもの
- PET検診、診察・治療の費用、薬や医療機器の代金などを支払った際の領収書
- 通院の交通費の領収書、その内訳がわかるメモ・記録
※領収証の再発行は原則ないので、医療機関の領収証は、1年間は保管しておくことをおすすめします。
医療費控除の申請
医療費控除の適用を受けるためには、「医療費控除の明細書」に必要事項を記入し、確定申告書に添付し所轄税務署に提出する必要があります。
給与所得者が、源泉徴収票、印鑑、医療費メモ(領収書貼付)を持参して税務署へ申告します。
詳細は国税庁の医療費控除に関するページをご参照ください。
> 国税庁ホームページ(医療費を支払ったとき)
高額療養費制度を利用する場合
もし治療が必要になったら…1ヵ月あたりの医療費を安く抑えることができる制度
がんは複数の治療法を併用して長期間の治療を行なうため、治療費や入院費、通院費などがかさんで高額になる傾向にあります。
「お金がないから」とあきらめず、必要な社会制度をきちんと利用して、がんや疾病を治療していきましょう。
高額療養費制度とは?
70歳未満で一般的な所得世帯の場合、1ヵ月(月初~月末)に8万100円以上の医療費がかかった場合、申請すれば戻ってくる制度です。※実際の金額は所得や年齢に応じて異なりますので、
保険適用となる治療の費用であれば対象になります。
がんの治療に必要なPET、CT、MRIなどの検査が、健康保険適用で実施されたなら、その費用は高額療養費制度の対象になります。逆に医療機関で保険適用外とされたなら、高額療養費制度に申請できません。
高額療養費制度の注意点
1ヵ月(1日~月末)の歴月で、家族にかかった費用が対象となるため、月をまたがると対象外となってしまう場合があります。
例えば、 同じ費用の「入院10日間・10万円」であっても、時期によって以下の違いがあります。
○適用
1月に10日間入院して10万円支払った
×適用外
入院が2ヶ月にまたがり、1月末と2月初に5万円ずつ支払った
同じ条件と金額であっても、現行の制度では、月単位で金額を決めているため、このような違いが生じます。申請を考えている方は留意しておきましょう。
「先進医療に係る費用」は高額療養費対象外、全額自己負担に
通常の治療にかかる保険診療分(診察、検査、投薬、入院費用など)は保険診療および高額療養費制度の対象となりますが、がんの陽子線治療・重粒子線治療などの先進医療分は対象外となるため全額自己負担になります。また自費で受けたPET検査費用も対象外となります。
(2020年10月時点)
高額療養費制度の申請方法
申請の方法は大きく分けて2通りあり、治療の事後に支給申請する場合、治療の前に申請して限度額適用認定証をもらう場合、に分かれます。
・利用法1-事後に手続きをして「支給申請」をする場合
一旦、医療機関の窓口で、通常通りにお会計を済ませ領収証を受け取ります。もし1ヵ月の自己負担額が所定の金額を超えていたら、健康保険証で加入している保険運営団体=保険者(被保険者証に記載されている○○健康保険組合、○○共済組合、○○後期高齢者医療広域連合など)に問い合わせ、高額療養費の支給申請を行ないます。その後、保険者から保険者から自己負担限度額を超えた部分が払い戻しされます。
・利用法2-事前に手続きをして「限度額適用認定証」を利用する場合
治療が継続して必要だとわかっている場合、医師の診断書をもらって、市区町村の窓口で手続きをすることで「限度額適用認定証」を取得します。
医療機関の窓口で、お会計の際に、高額療養制度の自己負担限度額のみを支払うだけで済むので、立て替えや後で申請する手間がいりません。
主治医に相談したうえで、市区町村の窓口にご相談ください。
詳細は厚労省の高額療養費制度に関するページをご参照ください。
> 厚生労働省ホームページ(高額療養費制度を利用される皆さまへ)
民間保障~民間の保険会社のがん保険など
民間の保険
民間の保険会社が販売している医療保険や、がん保険、がん特約などのプランがあります。
健康な方のPET検診や人間ドックに対してお金が出ることは基本的にありませんが、指定された提携施設でPET検査を受けることで、割引価格や格安料金で検診が受けられる場合があります。
がん保険とは
一般的に他の病気より、がんの保障を手厚くしている、がん治療に特化した保険です。
プランによって異なりますが、公的制度とは異なり、健康保険適用でない場合にも保障を受けられるケースが多いようです。
多く利用されている一時金タイプの保障では「がんと診断されたら診断給付金50万・100万・300万円」などのパターンが多いようです。
さらに近年は治療の短期化が進んだことにあわせて保障内容も進化し、入院給付金や診断給付金だけでなく、通院治療や放射線、抗がん剤治療、先進医療などの特約も充実してきました。
すでに加入されている方は、ご自身のプランがどこまでを保障対象にしているか確認しておきましょう。
PET検査費用の補てん
前述の通り、がん検診のために初めから給付金が支払われることはありませんが、もし検査でがんが見つかり、診断を受けた場合は、後で給付金を受け取ることができるので、かかった費用をカバーすることはできます。
これから民間保険に入って、がん検診やPET検査を受ける場合はご注意を
すでにがんにかかっている、あるいは過去にがんの診断を受けたことがある方、がんと関係の深い疾病や持病のある方は、がん保険への加入が難しくなります。しかし健康なうちであれば加入できます。
よくある例として、「がんが心配になったので、がん保険に入り、それからがん検診を受ける」という流れですが、ここで注意が必要です。
一般的に保険には加入直後の3カ月間または90日間は免責期間(待ち期間)あるので、その間にがんと診断されても保障されません。ですから、「がんが心配」「特約を利用してPET検査を受けたい」という方は、それよりも早めに加入しておく必要があります。
しかしながら、体に異変がある場合は、保険の免責期間に関わらず、まずは早めに医療機関を受診するようにしましょう。がんを1日でも早く発見して早期治療を始めることが、生存率や成功率にも直結し、何より大切なことだからです。